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逢香の華やぐ大和 鍋倉渓(奈良県山添村)

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大和茶の茶摘み挑戦

大迫力 パワースポット

深い緑に目を奪われる逢香さん=写真はいずれも山添村大塩

 

 書家の逢香さんが県内の名所を訪ね、四季折々の魅力を発見する「逢香の華やぐ大和」。今回は山添村の鍋倉渓(なべくらけい)を訪れました。天の川の地上絵として知られる神秘的なパワースポットや、大和茶の茶摘みなど豊かな自然の中での体験をレポートします。(川田悠紀雄)

 

鍋倉渓と天狗岩

 大和高原の中央にそびえる標高約618メートルの神野山(こうのやま)は、神様が宿る山として古くから信仰の対象とされてきた。逢香さんが今回最初に訪れたのは神野山の中腹に位置し、辺り一面岩に覆われた水面の見えない渓流の鍋倉渓。

 

 大小の黒色の岩々が広がり、まるで溶岩の流れのような景観を前に「なんだか神秘的」と逢香さん。村役場の担当の方から鍋倉渓の岩は神野山と伊賀の天狗がけんかをして伊賀の天狗が投げ込んだものだという伝説を聞いて、妖怪書家として興味が湧いた様子。

 

パワースポットとして知られる鍋倉渓。溶岩が流れ出たような黒々とした岩が続く

 

 山添村は関西屈指の星空スポットとしても知られ、鍋倉渓と点在する岩の位置関係が、約4千年前の天の川と北極星をはじめとする星座群と似ていることから天の川の地上絵ともいわれ親しまれてきた。

 

 散策ルートに沿ってさらに登山道を500メートルほど進むと見えてくるのは背丈4メートルにも及ぶ巨大な天狗岩。山伏や天狗がかぶる帽子、頭襟(ときん)に形が似ていることからその名が付けられた。

 

天狗岩の迫力に圧倒される

 

 迫力に圧倒された逢香さんが天狗岩を見上げていると、木陰から何かが動く気配が…。「何かいる~」と逢香さんが気づいたその時、ひょっこり顔を出したのは観光協会の方に連れられてやって来た村のご当地キャラ「てんまる君」。神野山に住むといわれる「からす天狗」をモチーフにした村のマスコットキャラクターで、2014年から村のPR活動を行っている。

 

 「てんまる君」は天狗岩の前で逢香さんと記念撮影をした後、NHKのテレビカメラの前で山添村の魅力をしっかりアピール。

 

山添村のご当地キャラ、てんまる君と記念撮影

 

新茶を味わい笑顔

 続いて逢香さんが向かったのは、保育園だった建物を利用した農業体験施設「かすががーでん」。

 

 山添村は県下有数の大和茶の産地でもあり、昼夜の寒暖差や水はけの良い山の斜面が、お茶の質の良さにつながっているとされる。

 

 村役場ОBで代表の東寛明さんらが中心となり、茶の木が残る耕作放棄地を活用して茶摘みや釜いりの体験、郷土料理が楽しめる場として2013年に開設した。

 

 この日は畿央大学(広陵町、冬木正彦学長)看護医療学科の学生らが茶摘み体験を行っており、逢香さんも参加させてもらうことに。 

 

畿央大学の学生らと茶摘みを体験する逢香さん

 

 同大では離島や僻地などでの看護を志すに当たり、地域の文化や風習の体験を目的とした課外実習を2011年から行っている。県内では川上村や宇陀市などをフィールドとし、今回同村には24人の学生が訪れた。 

 

 周囲に広がる茶畑を前に逢香さんは「緑がすごくきれい」と声を上げ、東代表から新芽の摘み方を教わる。先端にある芯の部分とその下2枚の葉を摘む「一芯二葉」が摘み方の基本スタイル。新芽は柔らかい上の部分に栄養分がたっぷり含まれているそうだ。

 

 収穫後はかまどの鉄鍋に入れた茶葉を手で動かしながらいる「釜いり」の作業を体験した。熱を加えたことで茶葉の香ばしさが増し、逢香さんも「うーんいい香り」とうっとり。

 

 続いて、いり終えた茶葉を布で包んで絞る手もみの工程へ。その後は再び釜いりを1時間半ぐらいかけて行い、ようやく新茶が出来上がった。

 

 急須に注いで試飲してみると、鮮烈な香りと味わいに逢香さんも思わず笑みがこぼれた。「苦味が少なく、みずみずしくてすっきりした味」とまろやかな口当たりに驚きを隠せない様子だった。

 

 同施設では現在、米国の品評会でかつて最優秀賞に輝いた村産の紅茶「べにほまれ」の復活に取り組んでいる。東さんらが国内で唯一残っていた当時の木から挿し木して約6年かけて育成、昨年ついに初の収穫にこぎ着けた。

 

 同村を訪れた際には70年の時を超えて復活した和紅茶を味わってみるのもお薦めだ。

 

お茶の香ばしい香りにうっとり。釜いり作業

 

 

逢香の目

 大自然の中での体験を基にいよいよ書を作成。鍋倉渓はまさしくパワースポット。大小さまざまな岩に人間の力を超えた自然が織り成す神秘の力を感じた。

 

緑に包まれ思いを書に込める逢香さん

 

 そして大和茶の茶摘み体験。伝統的な産業の保存、復活に向けた村の人々の思い。悩み抜いた末、逢香さんが紡ぎ出した言葉は「寧茶~Nature~」。山添村の豊かな自然と、丹精込めてお茶づくりと向き合う人たちへの敬意を言葉に込めた。

 

「寧茶」としたため、笑顔の逢香さん

 

メモ

◆書家/逢香(おうか)

 奈良市在住。6歳から書道を学び、奈良教育大学伝統文化教育専攻書道教育専修在学中、個性豊かな妖怪に興味を持ち「妖怪書家」として活動する。2020年、橿原神宮御鎮座130年記念大祭の題字や、元興寺(奈良市、世界遺産)の絵馬の書・画・印デザインを手掛けた。奈良市観光大使。

 

 

 

 「逢香の華やぐ大和」は奈良新聞社とNHK奈良放送局のコラボ企画で毎月1回掲載。NHK「ならナビ」(午後6時30分~)内で5月14日に放送されます。

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