金曜時評

自転車環境の整備 違反罰則だけでは - 編集委員 松岡 智

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 自転車の交通違反に反則金を納付させる改正道路交通法が5月、成立した。16歳以上の利用者に適用される「青切符」での取り締まりが2年以内に施行される。

 

 自転車の交通違反には従来、罰則のない警告、悪質な違反への「赤切符」で対応してきた。しかし自転車の交通違反に起因する事故が多発し、減少しない状況の中、より実効性の高い取り締まりの方法として導入が決まった。県内でも周囲を気にかけない暴走、注意散漫な走行を目にし、事故の心配をする機会が少なからずある。歩行者や自転車側から見た交通弱者を守るには、法改正も仕方ないところだろう。

 

 一方で法規を守って自転車に乗るには、利用環境が懸念される場面にも県内で日常的に遭遇する。自転車が走行するであろう道路端は、排水溝に沿って砂利やゴミがたまりハンドル操作に影響が出ることがあり、排水溝の鉄製のふたは、特に細身のタイヤの場合は雨天でなくとも滑りやすい。

 

 歩道に目を移すと、幅が広く歩行者と自転車の通行区分が設けられているのはごく一部。幹線道路や車通りの多い道でも、歩道幅が十分でなく、歩行者の多い時はゆっくり走行する自転車でも車道を利用せざるを得ない箇所がいくつもある。色付きの線を道路端に引いただけで自転車優先道とするにはいささか無理があり、車はほぼ考慮してくれない。制限速度の違いで車のドライバーが感じてきたミニバイクとの関係の危うさは、車道を走る自転車との間でも想定され、道路上でふらつく様子を見るたび思いが深まる。

 

 交通違反の取り締まりは根底に、利用者側から見た弱者を守るとともとに、利用者本人を重大事故から守るためとの考えがあるものだと信じている。だとすれば今回の法改正での正しい法規、自転車利用の方法を身に付けることを促す取り締まりと並行し、安全、快適に自転車に乗れる道路、歩道の環境整備が進められることも意に反せず、必要なことではないか。

 

 専用のウエアで集団走行する高齢者の姿が珍しくないなど、県内でも自転車の楽しみ方の幅が広がる。昨春からは自転車乗車時のヘルメット着用が努力義務化されるなど、安全面でも周辺状況は変化している。利用者の呼吸以外は二酸化炭素を出さないエコな乗り物を、気軽に使える部分を残したまま優しい、時代に適した文化として一層隆盛させ、次代に渡せるか否か。取り締まりだけではかなわぬとの思いがぬぐえない。

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