金曜時評

閉塞状況、打破を - 編集委員 水村 勤

 奈良労働局前の道路でしばしば、車が渋滞する。大半がハローワーク奈良を訪ねる人たちで、1階フロアは時間帯によっては混雑が激しい。雇用保険の受給申請のため、順番を待つ人たちであふれている。

雇用保険の受給資格決定件数は、このハローワーク奈良でも今年3月まで6カ月間、連続して増加している。3月は863件で前年同月より、なんと50.3%も急増した。求人企業の検索用パソコンもほぼ満杯。雇用状況の悪化は、統計数字ばかりでなく、ハローワークを訪れる人々の姿に現れている。

 雇用状況を示す有効求人倍率も、本県は0.52倍で1年前に比べ0.22ポイントも低下を見せた。ところが、企業誘致に熱心な滋賀県は0.45倍とさらに深刻、今回の世界不況で自動車・電気など輸出産業が大きな痛手を被った。事業所の少ない本県は鍋底をはう横ばい傾向だが、滋賀は本県より下に転落する皮肉な結果だ。しかし、本県も内需拡大が進まず閉塞状況にあることに変わりはない。

 ところで、警察庁の統計では昨年1年間の自殺者は3万2249人で、11年連続で3万人を超えた。動機で一番多いのは「うつ病」だが、「多重債務」など経済的な理由も多い。所得の減少が続き、場合によっては職場さえも失う。支えとなる地域の結びつきも弱い。人々の暮らしに閉塞感が深まっているように思えてならない。

 どう暮らしを立て直せばよいのか。それにはやはり、当事者自らが立ち上がるしか道はないようだ。

 昨年6月、障害者の自活を阻む就労状況を打ち破るためにNPO法人県社会就労事業振興センター(はたらくならネット)が発足した。ここが掲げる旗印に「工賃倍増計画」というものがある。いま、平成19年度の県内授産所の利用者の1カ月の平均工賃は1万999円だ。これを2万5000円に引き上げようと障害者団体が立ち上がったのだ。

 内職的な仕事ばかりでは現状は変わらない。授産所を拠点に商品力の高いクッキーとか和紙の名刺作り、清掃などの事業をセンターが請け負い、事業開拓に乗り出した。

 クッキーは県の後押しで7月のまほろば総体に向けて商品改良を加え、パッケージの試作品もできているという。成功すれば平城遷都1300年祭につながる。1カ月の生活費を考えれば、2万5000円はわずかだ。通過点に過ぎない。それでも自ら開発した商品を作り、売る。得た収入の意義は大きい。閉塞感を打ち破る試みとして注目したい。

 さて、戦後社会は長い繁栄をもたらしたが、バブル経済の崩壊後に有効な改革が進まず、社会保険のほころびなどの制度疲労、官僚腐敗もひどくなった。階層格差も拡大している。今夏には総選挙、7月12日にはその前哨戦となる奈良市長選を控えている。

 暮らしの視点から将来を見据え、閉塞感を打破する選択がここでも求められている。

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