特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

意識の高まり期待 - 編集委員 松井 重宏

 師走を前に県警各署で年末特別警戒隊の出発式が相次いでいる。毎年の恒例行事だが、もちろん単なる季節の風物詩などではない。県警が掲げる「日本一安全で安心して暮らせる奈良の実現」へ、官民が一体となって、犯罪や事故が多発しやすい時期とされる歳末を乗り切りたい。

 県警が10月末現在でまとめた今年の県内刑法犯認知件数は8313件で前年より約13%減少。オートバイ盗や車上狙いが少なくなったほか、空き巣も2割減った。ただひったくりは57%増、自販機狙いも76%増と大幅に増え、同一犯による繰り返しも疑われそう。また振り込め詐欺などは65件で前年を10件上回っており、深刻だ。

 一方、治安に関する県民意識は悪化を懸念する声が、わずかだが強まっている。県警の「警察活動に関する県民の意識調査」では、昨年より治安が良くなったと答えた人が8・9%で前年比1ポイント減、逆に悪くなったとする人は13・1%で同1ポイント増加。治安の悪化を感じる人の割合は昨年、12%と過去最少を記録したが、反転した。

 治安が悪くなったと感じる理由のトップは「空き巣などが発生」(30%)で、刑法犯認知件数の推移とは相反するが、調査は今年8月下旬から9月中旬に行われており、直前の7月に香芝市で起きた女児連れ去り事件も治安意識の悪化に影響したのかもしれない。

 ただ治安状況に対して住民が懸念を抱くということは、裏を返せば安全意識の高まりにもつながる。今月、桜井市で覚せい剤取締法違反などの疑いで逮捕された男が勾留の一時停止中に逃走する事案が発生。周辺では不安が広がり、小中学校の登下校で児童、生徒の見守り活動も強化された。そこにあるのは、子どもの安全について敏感に反応する市民感情だ。

 県内で子どもの安全に関する意識が一気に高まったのは平成16年、奈良市で起きた小学1年女児の誘拐、殺害事件。当時の衝撃を風化させることなく、安全な地域づくりにどう生かしていくのか。同市では発生から10年を一つの節目として、11年目の今年は「子ども安全の日の集い」を事件当日の11月17日から、それに近い日曜に移して開くなど、新たな対応も始まっている。

 県警の取り組みはもちろん、市民の立場でも防犯意識の啓発、安全教育の推進や地域の絆づくり、青色パトロールなど地道な活動を緊張感を失わず、継続していく方策が今、あらためて問われている。

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