注目記事奈良県内の自治体異動名簿掲載

金曜時評

鍵握る早朝の対応 - 編集委員 増山 和樹

 広島市の土砂災害は、最後まで行方の分からなかった女性が18日に遺体で見つかり、死者は74人となった。女性は肩にかばんを掛けており、避難しようとしたところで土石流に巻き込まれた可能性があるという。避難勧告がもう少し早ければと思わずにいられない。

 住民の生死に関わる避難勧告や避難指示をどのタイミングで出すか、人口規模の大小を問わず、全ての自治体が直面している課題である。自然が相手である以上、対応と結果が思うように結び付かないことは当然ある。重要なのは、常に最悪を想定し、住民が行動に移れる情報をいち早く伝えることだろう。

 政府が4月に策定した避難勧告などのガイドラインは「一人ひとりの命を守る責任は行政にあるのではなく、最終的には個人にある」と記した。であればなおさら、前提となる行政の責務を可能な限り果たすことが求められる。

 県内では、8月の台風11号で、桜井市が市内全域に初めて避難勧告を出した。松井正剛市長は本紙の取材に「空振りを恐れず、早め早めの対応をと思った」と話している。政府のガイドラインに示されたように、避難勧告などの「空振り」は、「避難した結果、何も起きなければ『幸運だった』という心構え」が重要だ。

 ただ、避難勧告などの判断はもちろん、事前に定めた防災計画を予定通り運用するのは容易ではない。計画が綿密であるほど、担当外のことに目が向きにくくなる懸念もある。

 県はことし3月、紀伊半島大水害の「災害体験者の声」をまとめた冊子を発行した。地域防災計画に基づいて対応しようとした五條市の担当者は「計画は机上のもので、実務運営をしていく際に難しい点があった」と振り返った。野迫川村の職員も「防災対応の組織づくりはしていたが、うまく機能するか確認する暇もなく、次々と押し寄せる事案に一つ一つ対応していた」と悲痛な声を寄せた。

 山間部と平野部で事情は異なるが、行政も住民も、事態が切迫する前にどれだけ動けるかが鍵を握る。避難場所を開錠する人手がなく、結果として避難勧告が遅れることもある。早い段階で避難場所を開設し、自治会や自主防災組織と連携して人を配置するのも手だろう。後手に回った対応の遅れは取り戻せない。

 命を守る個人の意識と行政の早期対応、二つがかみ合ってこそ、犠牲者を出さない防災が可能になる。

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