特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

検証論議も忘れず - 客員論説委員 小久保 忠弘

 韓国の旅客船沈没事故は、発生から2週間が過ぎたが死者・安否不明者300人以上におよぶ大惨事になった。大半が修学旅行中の高校生という痛ましい事実に衝撃を受けた人も多いだろう。隣国の特異な状況で起きた、特別なケースという見方もあるが、原発事故など「安全神話」が崩壊した日本社会でも「他山の石」として学ぶべき点が多いのではないか。想定外では済まされないニアミスが国内でも多発している。

 2027年に東京―名古屋間での開業(名古屋―大阪間は2045年)をめざすリニア中央新幹線は、安全な乗り物であるのかどうか。移動時間の短縮が、安全性の短縮につながってはならない。科学技術への過大な信仰が破綻する例を見るにつけ、われわれには未踏の分野に乗り出す際の覚悟と知識が求められよう。

 名古屋、大阪同時着工や2020年東京五輪開催と同時に完成をという期待論が横行している。さらに停車駅誘致をめぐって県の内外でホットな綱引きが続いている。どこを通り、どこに駅ができるかは最大の関心事に違いないが、山梨県の例をみても、結局は事業主体であるJR東海が決めることだ。技術的に可能かどうかというのが最大の決め手でなければならない。政治家が力を誇示するために運動し、おかしな妥協の産物が出来上がっては元も子もない。

 超電導磁気浮上式リニア鉄道という、これまで世界に類を見ない技術を導入する交通手段だけに、採算性以上に留意すべきは安全性である。さらに環境適応性についても議論が必要だ。

 従来からリニアの欠点を指摘し、計画の変更を唱えている橋山禮治郎千葉商科大客員教授は、近著「リニア新幹線 巨大プロジェクトの『真実』」(集英社新書)で幅広い角度から計画の「ずさんさ」を難じている。またJR東海がなぜ自己資金にこだわり、自社で資金を調達しようとしているのか、なぜ時速500キロ以上という世界最速の鉄道建設を急ぐのか、その理由を明快に指摘している。 

 リニアの安全性確保については、全線の大部分が深い地下・トンネル走行であること、強い電磁波の発生による人体への影響が懸念される。このことについての知見や対策が政府や監督官庁から出されていないのが気になる。近年、予想を超える自然災害や道路や橋など構造物の経年劣化が顕著になっている中で、あらためて安全性についての検証を要する。

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