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金曜時評

結論急がず議論を - 編集委員 増山 和樹

 「墳丘に再築困難か」。今月1日付の本紙1面を、衝撃的な見出しが飾った。文化庁の古墳壁画の保存活用に関する検討会は、高松塚古墳の石室を墳丘に戻さず、外部で保存する選択肢について、本格的な議論を始めた。3月の次回検討会で結論を出すという。

 非常に大きな方針転換であり、今後の文化財行政に及ぼす影響も小さくない。外部保存を選択するなら、なぜ戻せないのか、戻さないのか、文化庁は十二分に説明する必要がある。

 高松塚古墳の極彩色壁画は昭和47年の発見から約30年の間に著しく劣化、かびなどの被害と処理の影響で西壁の白虎は消えかけていた。飛鳥美人として名高い女子群像も、発見時の美しさは見る影もない。

 文化庁はそれらの事実を公表せず、平成16年に刊行された壁画発見30周年の写真集で国民の知るところとなった。

 石室解体による壁画修復を決めた平成17年の検討会は、修復後の石材を墳丘に戻すのが前提だった。文化庁もそのように説明してきたし、解体で掘り起こした墳丘の復元は「仮整備」としていた。

 当時に比べて何か大きな変化があっただろうか。壁画の修復にはおおむね10年かかるとされており、ちょうど半分が過ぎたところだ。修復の過程で大きな問題が起きたとも聞かない。

 だとすれば、石室の外部保存は規定路線だったことにならないか。解体決定の検討会では委員から反対の声もあり、元に戻すことを前提に結論が出されたと記憶している。

 劣化の発覚まで、文化庁は壁画は守られているとし、情報公開のあり方が厳しく問われた。石室の外部保存は、かねてから温存した腹案のように思えてならない。本当に元に戻す方法はないのだろうか。

 遺跡は現地保存が原則であるのは言うまでもない。高松塚古墳は史跡の中でも特に重要とされる特別史跡に指定されている。石室と一体で後世に残す道を最後まで探るべきだろう。本格的な議論が始まったばかりで結論を出すのは早過ぎる。

 幸いにも墳丘の「仮整備」は終わっており、5年ほど後とされる壁画の修復完了に向けて議論を続けても問題はないはずだ。なぜ結論が今なのか、理解に苦しむ。

 石室は16枚の石材で構成される。文化庁は瀕死(ひんし)の壁画を乗せた石材を一枚ずつクレーンでつり上げ、運び出すという難事業を成功させた。その熱意があれば、修復で状態が良くなった石材を元に戻す作業も不可能ではないように思える。

 結局は修復後の管理のあり方なのだろう。外部施設の方が保存しやすく、公開に適しているのは誰にでも分かる。しかし、あえて現地での保存にこだわり、可能性を探ろうとするのが、文化財の保存に範を示す文化庁の取るべき道ではないだろうか。

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