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金曜時評

対岸の火ではない - 客員論説委員 小久保 忠弘

 消費税の4月増税を前に、アベノミクスの波及を待つ県民も多いことだろう。日銀が「異次元」金融緩和に踏み切って1年。県内にどれほど効果が及んだか。個々のふところに、その実感はない。円安や株高の恩恵にあずかれない中小零細企業が、首相の言うようにおいそれと賃上げなどできるのだろうか。

 先月、このアベノミクスに真っ向から批判を浴びせる同志社大学大学院教授・浜矩子氏の講演を橿原市で聞いた。県トラック協会の主催。荷主の海外取引も多く、過当競争と運賃引き下げに苦しむ業界でもある。

 「これからどうなる、グローバル経済と日本」と題して、浜氏は「時代の合言葉はシェア(占有率=奪い合い)から、シェア(分け合い)でなければならない」とし、共生の生態系としてのグローバリズムを説いた。包摂性(包容力のある社会)を縦軸とし、多様性を横軸とする社会を目指すべきとする主張は、駐在員として活躍した海外経験に基づくものであろう。ヒト、モノ、カネが基本の経済活動が、カネ優先、モノ、ヒトの順に逆転している現状を憂えていた。

 若者を使い捨てにするブラック企業が暗躍する社会や、「豊かさの中の貧困」問題は政治の貧困がもたらしたものであろう。

 そんな中で、大阪市の橋下徹市長は、議会各会派の反対で大阪都構想が行き詰まったことから、市長を辞めて出直し選挙に打って出ると表明した。3月23日投開票で行われる市長選のために、大阪市は予算編成の繁忙期に大混乱の期末を迎えているという。

 「僕は今回再選されても、将来に対する自分の考えが100%信任されたとは考えない。しかし、再選された以上、次に落とされるまでは、自分の考える大阪市民の利益のために、めいっぱい活動する。それがダメだと言うなら、僕を落とすべきだ。僕にとって大阪市の設計図を作ることが今回の市長選の意義」(12日)とツイッターで述べている。

 嫌なら落とせばいいと選挙民にすごむ首長の傲慢(ごうまん)さは、他府県民ながらあきれるほかない。財政も潤沢でない中で、約6億円と言われる税金を使って選挙をする意味がどこにあるのか。本県と密接に関係する府・市であるがゆえに影響を懸念する。

 1月に亡くなった毎日新聞特別顧問の岩見隆夫さんが、中央公論2月号に「政治記者の総決算」と題した絶筆を残している。戦後政治とは何であったか。政治は「ヒステリー」、報道は「チャンバラ」、官僚は「冷笑」だと言う。政治は何かあれば大騒ぎし、ジャーナリズムはすぐ火をつけて刀を振り回す。その後には何も残っていないと自省するのは寂しいが、実感でもあろう。岩見さんは、この難しい時代に「せっかち」はよろしくない、みんな落ち着けと語っている。

 グローバリズムの時代には、本物を見分ける目が必要だ。巧言にだまされたり変なものに巻き込まれないようにしたい。

 

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