募集「悩み」や質問募集 僧侶3人がお答えします

金曜時評

県庁の移転は夢か - 編集委員 山下 栄二

 奈良市登大路町の県庁で1月25日夜、若草山の山焼き行事を楽しんでもらおうと一般開放を実施。全国5192人もの応募の中から抽選で選ばれた約280人が、屋上と知事室で絶景を堪能した。普段から昼間に一般開放されている屋上は、360度の大パノラマが広がり、県内で一番の景観に富んだ場所だろう。ただ、観光客らにあまり知られていないからか、役所内なので一見さんには入りにくいためなのか、平日昼間に屋上に上るといつもガラガラである。知る人ぞ知る穴場には違いないが、いかにももったいない。県の将来を考える時、この場所に県庁が存在する必要はあるのだろうか。

 観光立県を標榜(ひょうぼう)しながら、旅館・ホテル数は全国最低クラス。県は県営プ―ル跡地に国際級ホテルの誘致を図っているが、残念ながら該当地は魅力に乏しいといわざるを得ない。その点、県庁は奈良公園、有名社寺、県文化会館、県美術館に隣接し、鉄道、バスと交通アクセスも抜群だ。将来、県庁を移転し、その跡地に高級ホテルなどを誘致するのは夢物語だろうか。宿泊客は、ホテル周辺を鹿と戯れながら散歩する。このような場所は世界唯一であり、外資系ホテルチェーンも大きな魅力を感じるはすだ。

 東京と大阪を結ぶリニア中央新幹線。中間駅は奈良市付近に設置することが決まっていて、荒井知事も「想像がつかないほど威力を発揮する。とても大きな発展の要素がある」と期待を寄せる。ところが、ここにきて京都市がルート変更を求める“横やり”をいれてきている。京都市内はホテル・旅館は今でも数多い上に、高級外資系ホテルが7日と来年初めに相次いでオープンする。競争をあおるわけではないが、県も観光インフラの整備を急がなければ中間駅設置が厳しくなってしまうのではないか。

 県庁が移転すれば行政サービスの低下を心配する向きもあるかもしれない。しかし、各市町村の役所と違い、一般市民が頻繁に県庁を訪れることはないだろう。便利で景色のいいところから移動する県庁職員は不満だろうが、真面目で優秀な人材ばかりだろうから、それでヤル気が損なわれるとは思えない。県南部や東部はインフラ整備、過疎化など数多くの課題を抱え、県は南部東部振興課を置いている。これは県の「南北問題」ともいわれているが、たとえば北端の奈良市にある県庁を県中央部である中和に持ってくることによって、県南部の活性化につながるのではと話す首長もいる。

  昭和40年に竣工した県庁舎は、地上6階地下2階の鉄筋コンクリート造りで、趣のあるデザインが周囲の風景にとけこんでいる。県都の顔として愛着を感じている県民も多いだろう。「財政的にも県庁の移転は無謀」とする人も多いかもしれない。ただ、県の未来を考える時、コペルニクス的転回の大胆な発想もあっていいのではないか。

特集記事

人気記事

  • 奈良の逸品 47CLUBに参加している奈良の商店や商品をご紹介
  • 奈良遺産70 奈良新聞創刊70周年プロジェクト
  • 出版情報 出版物のご購入はこちらから
  • 特選ホームページガイド