特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

託された天理市政 - 主筆 甘利 治夫

 激戦だった天理市長選で、34歳という若い市長が誕生した。

 近年の地方選挙の流れそのままに、市民は「若さ」に期待し、並河健氏に託した。

 並河新市長も初登庁を終え、早くもフル稼働している。当選は目的ではない。これからが本番だ。選挙期間中に約束したことを、どう具体的に進めていくか。財政再建、環境クリーンセンター、市立病院など山積している課題は多く、その取り組みをしっかり見ていきたい。

 まず選挙結果をどう見るか。

 並河氏の立ち上がりは早く、他の2候補より先行した。昨年の総選挙で日本維新の会公認で戦い、敗れはしたものの、政治への思いを途切れさせなかった。同党を離党して完全無所属となり、しかも南佳策・前市長の路線を継承することを打ち出した。そして若さとクリーンなイメージを前面に出すことに成功した。それだけに地盤のないなかで、持ち前の行動力で、選挙前から、互角の戦いを示すことができた。

 一方、敗れた元民主党県議の藤本昭広氏、そして自民党が推薦した元商工会役員の沢田昌久氏だが、従来の古い形の選挙戦となり、健闘にとどまった。選挙経験豊富な藤本氏、自民党が総力を挙げた沢田氏の両陣営とも、市民の支持を得ることができなかった。

 勝った並河氏には、その批判票の重さをしっかり受け止めねばなるまい。そして選挙期間中に、「生まれも育ちも天理市民、天理をこよなく愛する」と訴え続けられた訳だが、首長は他市からの立候補も許されており、そんな情で左右されてはならないし、天理市をどうしていくかの一点にある。そこは自信を持っていい。

 ただ来春市制60周年を迎える天理市の長い歴史を無視してはなるまい。先人たちが築いてきたものを、しっかり受け止め、何でも新しければいいというものではない。卑弥呼の時代に重なる遺跡のある天理市だ。守るべき財産も多い。市民の誇りとするところを、しっかり捕らえてほしい。変えねばならぬところは変えたらいい。

 そして、まずは市職員との関係をしっかり構築してもらいたい。首長の権限は大きなものだ。公務員だから首長に従うのは当然でもあるが、権限だけで命令しても、それは中身を伴わない形だけになる。古参の職員は使いづらいだろうが、人生の先輩として、学ぶべきは学ぶことだ。

 さらに重要なのは議会との関係だ。若い市長の例は、生駒市や奈良市にもある。現職や元職を破って登場したこともあり、2期目にもかかわせず議会との関係はいまだにうまくいっていない。首長も議会も、同じ市民から選ばれている。選挙での「しこり」は当面残るだろうが、謙虚で真摯(しんし)な姿勢が求められる。

 「議会と両輪」であることを忘れてはなるまい。経歴からも政策通の並河氏であることは分かるが、せっかくのよい提案であっても議会の承認がなければ、前を向いて進まない。時に雄弁であることはよいが、「雄弁は金でなく銀」なのだ。本人にそのつもりがなくても、言葉が嫌みに聞こえたら、相手に響かない。

 若いから思いきりやればいい。並河市政の動静を、みんなが見ている。

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