特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

新しい動きに注目 - 客員論説委員 小久保 忠弘

 「なら燈花会」は今夏、奈良公園一帯で来場者91万8千人を集めた。昨年より5万6千人増えたというから、猛暑の中で大健闘したと言えよう。開始直前になると決まって夕立に見舞われ、準備も大変だったと思うが、関係者の努力で予定通り10日間実施し、好成績を収めた。今年で15回目の開催。古都の風物詩としてすっかり定着した。

 献灯募金やボランティアのサポーターで支えられるイベントだが、有志が中心の活動には限界があろう。さらに協賛企業の増加が望まれる。使い古された言葉ではあるが、観光には官民一体の協力が必要だ。

 夏場とともに、冬に少ない観光客の誘致が長らく課題であった。若草山の山焼きから3月の東大寺お水取りまでの間、訪れる人の少ない奈良公園をにぎやかにしようというのが「なら瑠璃会」。今年も2月8日から7日間、3社寺をLEDの光でつなぐイベントが行われた。燈花会の冬版である。まだ3回目とあってあまり知られていないが、回を重ねれば受け入れられるようになろう。

 先ごろ、冬の奈良観光にもう一つ楽しみなプランが発表された。来年2月に奈良市内の社寺を中心に開かれる「珠光茶会」。茶道の祖といわれる村田珠光は奈良市の称名寺住職で、室町時代にわび茶を大成した。後に武野紹鴎、千利休へとつづく茶道の基礎をつくった。この歴史的人物の名を冠した大茶会を2月12日から5日間の日程で開くという。

 流派の家元は京都に多く集まり、宇治茶のブランドと相まって、お茶といえば京都が通り相場だが、その歴史や製茶の実績から言えば、奈良も大いに胸を張ってよい。国指定伝統工芸品である生駒市高山町の茶筌(ちゃせん)は国内生産の90%以上を占める有力地場産業だ。高山城主の鷹山宗砌(そうせつ)が村田珠光のために茶筌を創作したという。赤膚焼も、また筆も墨も茶道と関係しよう。

 「和敬清寂」といわれる茶道の心得は、主客たがいに心を和らげ、つつしみ敬い、清浄な雰囲気を保つことだという。利休以来の、平和を希求するもてなしの心は、まさに観光の神髄であろう。祈りと信仰の文化都市・奈良にこそふさわしい事業といえるだろう。だが、せっかくの催しが専門家や一部のお楽しみであってはなるまい。

 地元の仲川元庸市長は「自他ともに『日本の三大茶会』と言われるような本格的な茶席と、茶道人口を増やすための茶席の2本立てで組み立てたい」とか。現行の二大茶会とは、東京の「大師会」と京都の「光悦会」をいうらしい。これはもう専門家と一部のお楽しみの世界に近い。あえて競わずとも、奈良は奈良で勝負をすればよいのではないか。

 ともあれ行政の積極性に期待し、やるからには継続性のあるものを望みたい。そのためには職員の研修も必須で、市の観光センターが年末年始を6日間も戸を閉めて休みような「おもてなし」のなさは避けもらいたい。

特集記事

人気記事

  • 奈良の逸品 47CLUBに参加している奈良の商店や商品をご紹介
  • 奈良遺産70 奈良新聞創刊70周年プロジェクト
  • 出版情報 出版物のご購入はこちらから
  • 特選ホームページガイド