注目記事奈良県内の自治体異動名簿掲載

金曜時評

官民一体の機運を - 編集委員 増山 和樹

 富士山が世界遺産に登録されて1カ月が過ぎた。7月1日から21日までの登山者数は昨年同期より35%増えたという。

 三つの世界遺産を抱える県内では、新たな候補として「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」が政府の暫定リストに掲載されている。ユネスコへの推薦を前提とした一覧表だが、登録への道のりは暗然として見えてこない。

 動きが行政レベルにとどまり、県民に浸透していない現状には問題がある。「飛鳥・藤原」が世界遺産候補であることを知る人も少ないのではないか。暫定リストへの掲載は富士山と同じ平成19年だった。

 県などは当初、古墳や寺院など28件を構成資産としていた。蘇我馬子の墓といわれる石舞台古墳や酒船石遺跡、国名勝の大和三山など、飛鳥地域を象徴する資産が並ぶ。

 ただ、飛鳥時代の遺構が地中に眠り、見ることができない資産も少なくない。壮麗な大極殿があった藤原宮跡も、現状では草原にすぎない。

 一方、ユネスコは新規登録を抑制する方向にあり、ハードルは年々高くなっている。現地調査を行う国際記念物遺跡会議(イコモス)の評価が登録を左右するが、「鎌倉」は不登録を勧告されて富士山と明暗を分けた。

 日本政府の単独推薦候補が不登録とされたのは初めてで、推薦が手続きの一つにすぎない現実を突き付けられた。登録延期を勧告された「平泉」(岩手県)の再挑戦は記憶に新しい。勧告を受けて構成資産を見直し、3年後の平成23年、登録にこぎ着けた。

 同県の担当者は橿原市で開かれた翌年のシンポジウムで、世界遺産の登録基準が石造文化財を中心とする「ヨーロッパの基準」であること、保存管理に住民の「おもてなしの心」が欠かせないことを強調した。登録には「顕著な普遍的価値」の証明が必要となる。

 飛鳥には石の文化があったといわれる。宮殿中枢部は石敷きだったし、苑池には石の洲浜が広がっていた。発掘後は地中で保存され、日本人が心に映す風景をイコモスの委員に理解してもらうのは容易でない。

 国内候補地の苦戦を受け、県と関係市町村でつくる世界遺産「飛鳥・藤原」登録推進協議会は、価値や構成資産の見直しを進めている。学識者による専門部会も設けられた。

 そういった行政の努力が県民にどれだけ知られているだろうか。「おもてなしの心」どころか、民間レベルでは全く盛り上がっていない。住民が登録を望んでいるかも定かでなく、現状での推薦には無理がある。

 未来に向けて守り伝えるという意味で岩手県の担当者は「世界遺産登録はゴールでなくスタート」とした。何のための登録なのか、あらためて考える必要がある。その上で、飛鳥という時代を分かりやすく県民に説き、運動の底上げを図らねばならない。登録成って地元が戸惑うようでは観光客も困る。

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