特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

控えめに反論する - 論説委員 北岡 和之

 日付や固有名詞などを間違って読者の皆さんにご迷惑をおかけしてばかりの身で大きなことは言えないが、先日の「大誤報」という指摘には、本紙に携わる一人として少しは反論させてもらってもいいのではないか。そんな思いで述べてみることにした。

 本紙などに掲載された記事をめぐって「大誤報」と言ったのは、日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長である。その記事は橋下氏の5月13日の発言を取り上げたもので、本紙は翌14日付で掲載している。共同通信社の配信記事だが、当方は橋下氏の誤報指摘を認めるわけにはいかないと思っている。

 橋下氏が批判を浴びたのは「戦時中の従軍慰安婦制度に関しては『あれだけ銃弾が飛び交う中、精神的に高ぶっている猛者集団に慰安婦制度が必要なのは誰だって分かる』と持論を展開した」という部分が一つ。

 この中の「必要」についての理解をめぐって、橋下氏が戦時中の従軍慰安婦制度を「容認」したのか、それともそういう事実が過去にあったと指摘しただけなのかが「大誤報」か否かの分かれ目となっている。

 この記事を誤報と批判するのは当たらないと思う。軍が関与して慰安所を設け、性行為の強制があったことと、一般的な民間の売春施設があったこととは次元が異なる話だ。橋下氏にその区別がついていないような印象を与えたのが「…必要なのは誰だって分かる」という発言のニュアンスだ。橋下氏が批判されたもう一つの発言は、沖縄駐留の米軍司令官に「風俗の活用」を進言したとされる話だ。さすがにこちらは発言を撤回したようだが、この二つはつながっている。

 橋下氏は、従軍慰安婦のことと、民間の売春のこととの違いが本当には分かっていないのではないか。ここを区別しないことの重大さを分かっていないのではないか。そう印象づけられた思いはなかなか消えない。だから私たちは、あいまいな言い訳に終始しているとしか見えない橋下氏の従軍慰安婦に関する一連の発言が、誤報とした部分も含めて撤回・訂正されない限り、同氏の言い分をすんなりとは認めるわけにはいかない。

 何度か言ってきたが、当方も橋下氏と同じ戦後生まれで、従軍慰安婦の実際は知らない。だが、かつて約7年間にわたって中国で旧日本軍兵士として戦った作家、田村泰次郎が敗戦直後の昭和22年に発表した作品「春婦伝」を読むと、従軍慰安婦制度を「容認」していたかどうかは別として、当時の事実の一端を浮かび上がらせているように思える。その程度には、あの戦争を生き抜いた作家が書き留めた「真実」を信じてもいいのではないか。

 橋下氏は後の「私の認識と見解」で「公娼、私娼、軍の関与の有無」に関係なく女性の人権を尊重すべきだとしたのが本意だったように言うが、これはすり替えではないか。当初の発言から感じられるもの、見えてくるものを大切にして検証を続けねばならない。

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