特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

意義大きい音楽祭 - 編集委員 増山 和樹

 6月の県民だよりの表紙は「音楽で奈良を元気に!」である。ホールはもちろん、寺社やホテルもステージにした音楽祭「ムジークフェストなら」が14日に開幕する。実行委員会と県が主催し、今年で2回目を迎えた。

昨年は奈良市内だけの開催だったが、今年は中南和地域にも拡大、期間も1週間近く長くなった。30日までの17日間に約200の公演が予定され、150年近い歴史を誇るドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団も来県する。

 メーン会場となる県文化会館周辺の環境は他に代えがたい。若草山を望む奈良公園では鹿がゆったりと草を食み、興福寺や東大寺では天平の仏たちが拝観者を迎える。昨年は趣深い寺社でのコンサートが人気を集め、満員御礼が相次いだ。海外でも評価される音楽祭に発展する素地は十分あり、そうあってほしいと願う。

 17日間とはいえ、県がムジークフェストに掛ける予算は小さくない。本年度の当初予算には9500万円が計上された。そのおかげか、実行委主催の有料9公演は7公演までが1000円。ドレスデン・フィルもS席を5000円で購入できる。複数の演奏会に足を運ぶ音楽好きも多いのではないか。

 大阪市では、橋下徹市長が市の直営だった市音楽団の廃止を打ち出し、文化・芸術分野の補助金削減に乗り出している。国内で最初の都が誕生し、芸術でも源を発した奈良県が、国内外に誇れる音楽祭を目指す意義は大きい。芸術は育てるものであって採算で割り切れる代物ではないはずだ。定着すれば他の自治体に与える影響も大きいだろう。

 ムジークフェストのテーマは「古都で響きあう音と人」。昨年は目標の2万人を大きく上回る約3万8000人が訪れた。音楽を通じて人と人がより豊かにつながり、古都奈良の新たな魅力を発信できると信じたい。大阪市のように世界レベルの巨大なコンサートホールがあるわけではない。歴史に彩られた風土が何よりのステージとなる。ムジークフェストが発展を続けるなら、奈良市内に野外音楽堂のような施設があってもいいと思うがどうだろう。

 世界的な指揮者、小澤征爾氏が総監督を務める「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」は、信州の山々に抱かれた長野県松本市で20年の歴史を重ねてきた。生まれたばかりのムジークフェストも、古都の緑に抱かれ、多くのファンを集める「奈良の音楽祭」として成長してほしい。

 そのためには若者の参加が重要だ。県内外から芸術に関心のある学生が集まり、企画段階から参加できる仕組みがあれば、さらに内容が深まるのではないか。来場者の幅も広がるだろう。天平文化が栄えた平城京は、国際色豊かな都だった。正倉院宝物をはじめ数多くの至宝を伝えた奈良県が、芸術の都としてよみがえることを期待したい。 

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