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金曜時評

自ら襟正し努力を - 編集委員 松井 重宏

 老朽化した奈良市の火葬場を建て直す事業が候補地の選定をめぐって二転、三転し、迷走状態に陥っている。一部の個人や地域に負担を求める公共施設の建設。そこで意見を調整し合意を作るのが行政の役割だが、信頼が揺らぐ現在の市政にその能力があるのか。懸案のクリーンセンター移転も含め、日常の市民生活に直接影響する重要な事業で、これ以上の遅延、混乱は許されない。

 同市では昨年の夏以来、職員による不祥事が相次いで発覚。きのう11日は、市税の延滞金着服をめぐる業務上横領と公共工事費を水増ししたとされる背任の2件で、それぞれ元職員の公判が開かれ、司法による事件の解明が進んでいる。また市も違法行為の点検、再発防止に向けた取り組みに着手。今月9日には不祥事に関する職員アンケートの集計結果を公表したが、市民の信頼を回復するにはまだ相当の時間がかかりそうだ。

 何しろ、不祥事に関する情報提供を求めた記名式の職員アンケートでは、回答者2778人のうち「不祥事や市民の信用失墜につながる恐れのある事案」を知っているかを聞いた設問で、公金の取り扱いに関して「心当たりがある」とした職員が53人もいた。公金以外の不祥事についても435人が「ある」と回答。さらに不祥事が続く理由として複数回答で「管理体制」(50%)や「職場風土」(39%)など組織自体の問題を指摘した職員も多く、根は深い。

 こうした結果を受け、仲川市長はインターネットの個人ブログで「これからは全職員がしっかりとした現状認識を持ち、一刻も早く『脱不祥事体質』を達成」したいと表明。ただ、ここでいう「全職員」に自身が含まれているのかどうかは分からない。むしろ積極的に「自ら襟を正し、先頭に立って」と言うべきところ、アンケートの対象となった「全職員」だけに問題を押し付けるようでは、事態の改善はさらに遠のく。

 しがらみのない、若い行政トップに期待された柔軟な発想や素早い決断が、結果的には思い付き、拙速との批判を浴び続けていることを同市長はどう考えているのだろう。

 火葬場の移転では、土地造成が不要で、地権者や近接住民も少ない―などとして奈良ドリームランド跡地を有力候補に挙げたが、地元から「市長、市当局の拙速な考えや地元への相談もないやり方」に批判が噴出。3月の交渉明言から半年で白紙撤回したが、直後には新たな候補地として「白毫寺地区以外を目指したいと考えていたが、同町を含む市全体の中で探す」と述べ、混乱を増幅させた。

 いわゆる「ぶれない政治」「決める政治」は政党や政治家のスローガンに過ぎないとしても、市民と行政の信頼関係回復には、誠実さに裏打ちされた「ぶれない信念」「決める努力」が何より欠かせない。火葬場やクリーンセンターは本当に大切な施設。その切実さを問いたい。

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