特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

政治を遠ざけるな - 論説委員 寺前 伊平

 野田佳彦首相が今国会会期末である、きのう21日までに採決を目指していた、消費増税法案など税と社会保障の一体改革関連法案の衆院採決は見送られ、きょう22日以降に持ち越された。すでに自民、公明両党とは修正合意済みで、採決に移れば数の上では可決されるのは間違いない。

 ただ、依然として小沢一郎元代表ら法案に反対のグループは採決に造反する構えは崩しておらず、場合によっては内部分裂の危機をもはらんでいる。とりわけ、小沢グループの中には県選出の大西孝典衆院議員(近畿比例)が名を連ねており、造反組の一員として集団で反対票を投じるのかどうか、目を離せないところだ。

 思えばここ数カ月間、政治そのものが「危険水域」にあった。崖っぷちで自民、公明両党との修正合意にこぎつけたのである。悲しいのは政権与党内で執行部に対して不満が渦巻いていることである。中間派と証する議員らが次々と執行部の対応に理解を広げてきているのに対して、小沢グループの議員らは「反対」の強行姿勢を崩しそうにない。

 一方で自民、公明両党は小沢グループの大量造反を誘い、民主党を一挙に分裂状態に追い込みたい思惑がある。民主党執行部は内部からと自公からの圧力に対抗するのに躍起で、会期を9月8日までの79日間延長することが確定したことで、ひとまず局面を切り抜けた格好。採決の第2ラウンドに向けて重心を傾けた。

 反対勢力の指揮官である小沢元代表。新聞、テレビでは大々的に取り上げられていないが、「週刊文春」6月21日号にアッと言わせる記事が載り、それなりに話題となっている。「小沢一郎 妻からの“離縁状”全文公開」の大見出しである。

 便箋(せん)11枚につづられた問題の手紙は、小沢元代表の夫人が岩手県の選挙区の支援者に宛てた私信。“離婚”に至った経緯などが書かれているが、とくに興味をひくのは東日本大震災、その後の原発事故で地元へお見舞い行くよりも先に、放射能を恐れて一時、東京から西日本へ脱出したというくだり。大震災、原発事故で日本中が大変な時に、大政治家が自身の身の安全のために地元を見捨てて右往左往していたとするならば、とんでもない話である。

 その大政治家が今国会採決のキーパーソンなのである。政治信条や手法が違えば同じ党内でも、なかなか話がまとまらない場合もある。それはわかるのだが、現実を直視してもらいたい。長いデフレのトンネルの中、若年層の雇用問題、貧困問題、社会格差の広がりは止まらない。言い出せば次々とでてくるぐらい、とくに大震災以後の政治の無策さが問われているのである。

 採決に際し、造反による除籍処分が54人に達した場合、衆院で少数与党に転落する民主党。離党して新党をつくる動きに展開していくようなことになれば、政治をさらに遠い存在に追いやることにもなる。

 論語に「義を見てせざるは勇なきなり」の名言がある。野田首相には誠意を尽くした大いなる決断が欠かせない。国会議員はまさにいまこそ、現実の国民生活を直視し、政治が前進していくよう勇気をしぼって行動するときである。

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