特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

現実から一歩前へ - 編集委員 水村 勤

 先日の本社政経懇話会で、講師の福岡政行氏が興味深い話をした。昨年3月に起きた東日本大震災と東電福島第1原発事故の際の菅直人首相と、阪神・淡路大震災時の村山富市首相の比較である。

福岡氏は月刊誌の対談記事の内容を紹介して、原発について生半可な知識を持っていた菅首相がトップダウンで指示を行い、結果的には東電本店、原発の現場への混乱を招いたと見られているのに対し、首相としての指導力を批判されていた村山首相は震災時に「(初めての事態に)私はこれに対応する答えを持ち合わせていない。すべての責任は私が取るので、各大臣はそれぞれのところで総力を挙げて対処してもらいたい」と督励し、徐々に内閣が機能していったことを挙げ、村山首相を評価した。

 実際、地震対策担当相に小里貞利氏を得た村山内閣は、震災直後の対応は遅れ、もたもたしていたものの、復興支援のスキームなどが決まると、スピードは菅・野田政権よりも速かったという。才気煥発、「オレが、オレが」のパフォーマンス好きの菅氏に対し、自社さ政権で首相ポストに恬淡(てんたん)としていた村山氏に、むしろ自民党の重鎮たちが支える気配があった。

 消費増税を柱とする社会保障制度改革の民主・自民・公明3党の法案協議の展開は昨今、野田佳彦首相の“丸のみ合意”の思惑が喧伝(けんでん)されているが、党是の非武装中立を棚上げして「自衛隊を合憲」と“丸のみ”した村山首相をほうふつさせる。

 野田首相は、関電大飯原発3、4号機の再稼働問題を特別な監視体制を敷くことで進める。電力不足による国民生活や、日本経済への悪影響に対しリスク回避は現実的な当然の判断だ。もちろん、3、4号機の危険性を除去する改善がすべてなされたわけではない。事故発生時の免震重要棟が完成するのは4年後という。これは困る。関電も原子力発電への信頼回復をどう具体化していくか、積極的に国民に示していかなければならない。

 さて、野田首相には、途上にあるエネルギー政策の見直しや、原子力政策の信頼回復のために、いかなる時も国民の生命、財産を守るという「官」の真摯(しんし)な職務遂行へ、どう立て直しを図るのか求めたい。ほころびをきたしたネックの改善には官僚自身にも立ち上がってもらわなければ、真に国民の信頼を回復することはおぼつかない。

 国会は社会保障制度改革法案の修正について、3党協議がまとまるのかどうか、分からない。特に社会保障分野の主張は平行線をたどっている。自、公両党は民主党のマニフェストにある最低保障年金を盛り込んだ新年金制度と、後期高齢者医療制度の撤回を執拗(しつよう)に求めている。実質、消費税増税だけの“丸のみ”は改革と言えるのか。

 年金制度の改善、幼・保育園に通えない待機児童の問題解決など、現状から見て一歩前進といえる修正か、その努力をしているのか。

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