特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

議論の上、決断を - 編集委員 水村 勤

 鍋の底をはうような民主党野田政権の動きに飽き足らないためか、各地で知事や政令指定都市の首長らの動きが活発だ。

 国政の転換をも志向し、政治塾を開講するなどして新たな勢力拡大へ動いているのは、橋下徹・大阪市長をトップとする大阪維新の会。最近は、関西広域連合よりは、もっぱら大阪都構想の推進や、脱原発問題での発言に注目が集まる。

愛知でも大村秀章知事が「特定広域連合」設立に積極的な発言を行い、岐阜、愛知、三重の中部3県と名古屋市で国の出先機関の受け皿づくりの検討を進めていくという。

 広域連合の中でも、大阪、京都、兵庫、滋賀、和歌山、鳥取、徳島の7府県で発足した関西広域連合は全国初の組織だ。現在は政令指定都市の加盟も認め、大阪、堺両市が加わり、京都、神戸両市も加わる方向にある。こうして、関西の主要な自治体が地域主権の確立のために活発な議論を重ね、その成果をまとめて提起している。原発再稼働の国の方針についても、自治体としての見解や提言を示し、存在感を持ちつつある。

 もちろん、検討段階では議論しながらも発足段階では参加しない、わが奈良県の懸念も分からぬではない。「参加府県から業務を持ち寄るため、権限も委譲されるのは分権ではなく集権」という本県の心配は続くだろう。

 というのも、本県は明治9年から20年にかけて奈良県廃止(堺県・大阪府編入)という苦い経験がある。「青山四方にめぐれる国―奈良県誕生物語」には、この時期に大和で徴収された地方税の大半が摂津、河内、和泉の現・大阪府下で使われ、大和の河川・道路の整備が遅れたことを示している。大都市中心の行政運営への懸念は拭いがたい。

 しかし、昨年3月の東日本大震災は、地域の広域的な支援・連携の大切さを教えている。また、9月の台風12号豪雨被害に対しても近畿の各府県が広域連合の名で被災地の人々の救援・復旧にいち早く行動してくれた。従来の各府県間の広域連携で十分対応できたにしても、広域連合という受け皿が有益な組織として徐々に形を整えており、さらには本県の交通や産業力を強化していくためにも広域連携が今まで以上に重要となっている。

 広域連合がそのまま道州制移行に結び付くとは考えにくいし、末端の基礎自治体(市町村)に主導的にかかわることも難しい。従来通り、市町村行政をサポートし、さらに県域全体の行政運営を一定完結していくためにも、府県の役割は今後も続くことだろう。

 手堅くても、このまま従来の行政運営を維持するだけでよいのか。広域連合について虚心坦懐に議論すべきだ。仮に連合に参画した時は、リニア中央新幹線についても堂々と本県の主張を行い、大都市中心の政策決定のあり方に、はっきりと疑問を投げかけるべきと思う。

 今こそ、広域連合について話し合おう。

特集記事

人気記事

  • 奈良の逸品 47CLUBに参加している奈良の商店や商品をご紹介
  • 奈良遺産70 奈良新聞創刊70周年プロジェクト
  • 出版情報 出版物のご購入はこちらから
  • 特選ホームページガイド