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金曜時評

一体的県民運動を - 論説委員 小久保 忠弘

 リニアモータカーのリニアとは、ライン(直線)の形容詞「Linear」からきているらしい。だから、点と点を最短で結ぶ直線でなければ意味がない。ジグザグやカーブでは用をなさないのである。JR東海が計画するリニア中央新幹線の新駅設置が「奈良市付近」とされているにもかかわらず、ここへきて大和郡山だ、生駒だと各市が誘致に名乗りを挙げている。直線がカーブし、地元が割れている印象を与えては県民運動どころか、JR東海も引いてしまうのではないか。

 奈良商工会議所は27日、リニア新駅について、県に誘致運動の強化を求める要望書を提出した。「奈良市付近への奈良駅設置の早期実現に向けた強力な運動の展開を要望する」というもの。2月には生駒商工会議所が学研高山第2工区への誘致を求めて同市と議会に要望書を出し、これに山下真市長が飛びついた。事業計画が頓挫している第2工区問題をこれで解決したい思惑もありあり。新年度予算に1千万円の調査費を計上した。昨日も知事に会って持論を展開したという。

 既に大和郡山市は「紀伊半島地域にも及ぶ高速輸送機能の効果をもたらす」として議会ともども駅設置へ積極的に動いている。

 奈良商工会議所の要望活動は2市の動きに触発され、地元として遅れをとるまいということかもしれないが、お願いするだけでは説得力がない。自分たちは何ができるか、具体的行動をもって示すべきだろう。

 それにしても京都の政財界が駅誘致へ突如名乗りを挙げ、JR東海社長が「京都駅併設は困難」と否定したにもかかわらず、なお執着を捨てていない状況で、奈良の地元がまとまっていないのはマイナスだ。県が加入していない関西広域連合でも、滋賀の知事は京都に肩入れしようとし、売り出し中の大阪市長などは奈良駅など一蹴できると考えているのではないか。

 昨年6月、小欄で「リニア奈良駅設置へ県民運動を」と書いた。経済波及効果21兆円ともいわれるビッグプロジェクトに乗り遅れてはならない。そのために、国やJR東海に働きかける県をバックアップし、まとまりと一体感のある運動を展開しなければならない。

 全線開業は33年後という。恐らく現役世代で実際にリニアに乗れる人は少ないだろう。景気の低迷と震災復興・原発事故からの脱却にめどが立たないなかで、50年先、100年先のプランを語るのは難しい時代だ。だからこそ夢のプロジェクトに若い人たちの結集を望みたい。運動の担い手も実際に乗ることのできる若い人であるべきだ。

 県の豊かな歴史文化・観光資源も多くの人が来なくては宝の持ち腐れである。長らく高速鉄道網と無縁だった私たちに、やっと光が当たろうとしている。狭量な地元至上主義で足の引っ張り合いだけはしないでもらいたい。無益な競い合いでは、「トンビに油揚げ」をさらわれかねない。

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