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金曜時評

大震災に負けるな - 論説委員 小久保 忠弘

 東北・関東地方を襲った大地震と大津波の被害は目を覆うばかりの惨状を呈している。11日の地震発生から1週間たったが、行方不明者の捜索、死者の収用、要介護者や避難住民の保護など、今なお手が届かない状態だ。関係者による懸命の救援が続いているが食料・燃料の確保さえ十分ではないという。これが世界に誇る21世紀の先進国なのかと、がくぜんとならざるを得ない。

さらにまた原子力発電所の損傷という、私たちが初めて直面する深刻な事態が勃発している。政府の対応は未熟で、情報の伝達や指揮系統といった肝心なところで力量不足が指摘されている。政策運営さえままらない政権に、国難ともいえる事態に多くを期待する方が無理かもしれないが、国民の暮らしと健康、生命と財産をどう守るのかという最低限の責任を果たしてもらわねばならない。

 そんな中でも、統一地方選挙や選抜高校野球大会は既定どおり実施の方向で動いている。統一地方選は被災地を除いて実施する特例法案がきょうにも成立する。広範囲の被災地があり、選挙どころではない事態になっている折から延期すべきという意見もあったが、できるところはやると決まった。

 同じく高校野球も被災して10日余りで決行することに異論がある。被災地からの出場校などは選手の心身が万全といえるのか。学校・地域が応援をする状況にあるのか。テレビ中継ができるのか。試合環境が公平といえるのか。何よりもプレーする選手の気持ちが重要だ。従来のように「見る人に夢と希望を与える」と簡単には言えまい。

 だがそうであっても、もろもろ考えて、選挙も野球もできるところは既定通りやった方がいい。被災地に思いを寄せつつ自分たちのできることはやる。助からなかった人の分まで精いっぱい努力することで心を通わせることができる。候補者も野球選手も、そんな意義づけをしてはどうか。悲しみを共有するあまり、引きこもってしまってはならない。元気な人まで萎縮しては被災者に思いが届かない。全ての行事を自粛してしまうことが哀悼の意を表することにはならない。

 私たちは、この大震災から悲しみとともに多くのことを学んでいる。日頃備えるべき防災用品や避難場所・経路、家族との連絡方法、食料調達、情報入手方法などはもちろん、巨大津波から逃れるには、原子炉の爆発に際しての心構えといったこれまで考えたこともなかった事態にどう対応すべきかを。連日の報道からは、命の明暗を分けた判断や決断など、生き延びた人の話から次に生かせるヒントや教訓もあるはずだ。さらに地域や国家の危機管理についても思い知らされた。

 阪神大震災から16年。私たちはまだまだ学び足りないのかもしれない。

 そんなことも胸に、候補者も選手も犠牲者や被災者に思いを致しつつ告示日、開幕日を迎えたい。

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