注目記事山下県政 世論調査の全結果掲載

金曜時評

政治家の器を問う - 論説委員 小久保忠弘

 「俺は 傷であつて また 短刀だ。/俺は 撲る掌であり、撲られる頬だ。/俺は 車裂きにされる手足で、また裂く車だ。/犠牲(いけにえ)であって 首斬り役人だ。」(ボオドレール「悪の華」)

民主党の代表選に立候補した菅直人首相と小沢一郎前幹事長が笑顔で握手する写真を見ながら、19世紀フランス詩人の作品を思い出した。笑顔の下に隠された憎悪、固く握った手のひらの内に秘めた冷たさ。いやそんなまわりくどい言い方をしなくとも「昨日の友は、きょうの敵」という言葉どおりだろう。

 権力を握って1年が過ぎ、民主党は内包していた政策矛盾に最終決着をつける時がやってきた。今日の迷走は当時から予想されていたことでもある。淵源をさかのぼれば、元自民党員と非自民党員の対立に大別できようか。それでは大雑把すぎて理解しがたいという向きには、失礼ながら怖い顔でも「できる人」がいいか、ずるそうな顔でも「とりあえず」がいいか、お好み次第。

 残念ながら、党員でもサポーターでもない身には1票行使の権限はないが、同党有権者のみなさんには、日本国首相を選ぶ責任が課せられていることを今いちど自覚されたい。

 とくに投票権のある県選出・関係国会議員諸氏には、県民の負託をも背にしての行動であることを肝に銘じてほしい。小沢氏支持票が多数との情報もある。どちらかといえば都会住民に受けそうな菅氏より、東北の田舎の人情に通じていそうな小沢氏に期待感を持ちたい人も多いだろう。

 小沢氏なら、まだまだ未整備の道路や橋やトンネルを造ってくれそうだし、昨年の遊説では県内の農家で土にまみれたネギの束を持ち上げてポーズを取った姿が印象に残る。所得補償など農家にとっても小沢氏は悪くはないかもしれない。ばらまきの恩恵に浴してこなかった県民にとっては、実行力のありそうな人物になってもらうに越したことはない。

 昨年の政権交代が、はやり病の熱が高じた結果の一時的現象とは思いたくない。古い自民党政治から決別すべく歴史的な選択をした国民が、祈るような気持ちを込めて1票に託したはずだ。いまだ道なかば、官僚の壁は厚く、高い。出来合いの素人集団が苦戦しているのは理解できるとしても、目に見える実績を示してもらわねば困る。生活が第一の党が国民生活を救えなくて何のための政治か。

 昨日の公開討論会で、揮毫(きごう)を求められた菅氏は「初心を貫く」と書いたのに対し、小沢氏は名前だけを書いて「今の気持ちは、真っ白」と答えたという。政治とカネの問題について、シロ=潔白をもじったのか、サービスだったのか。案外こまかい気遣いする人のようだ。そういう意味では選挙戦になって双方の主張が聞けたのは良かった。どちらが想像力に富み、説得力があるか存分に語っていただきたい。いずれにしてもマニフェスト以上のものは出ないはずだが。

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