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金曜時評

賢明な選択に希望 - 論説委員 小久保 忠弘

 「大衆は愚にして賢」―。今から36年前、第10回参院選の結果を報じた本紙の前身「大和タイムス」は、社説で先の言葉を引用して「あまりいい言葉とは思わないが、一面の真理を衝いている」と論じた。

 昭和49年の参院選は、7月7日投票の“七夕選挙”だった。列島改造ブームに沸き「今太閤」ともてはやされた田中角栄首相のもとで行われた。前年のオイルショックの影響で経済は悪化し、厳しい選挙といわれた中で、自民党は企業を総動員し、集めた数百億円といわれる選挙資金を使って集票を図った。まさに「企業ぐるみ」「金権選挙」と言われたほどで、「自民党の大企業依存はあまりにも露骨だった」(同紙7月8日付)。

 ところが選挙結果は、自民党は70議席から7議席も落とし、過半数ぎりぎりの「保革伯仲」を実現させた。社会28、公明14、共産13、民社6、無所属4。この中には、若かりし菅直人首相がかついだ市川房江さん=当時81歳=もいた。さらに鳩山由紀夫前首相の父親、威一郎氏も初当選している。宮田輝、青島幸男、山東昭子といったタレント議員が躍進した選挙でもあった。

 県選挙区(地方区)では新谷寅三郎氏(自民)が25万9995票を獲得して堂々の6選。笹田治人(社会)、和田修(公明)、岩田良孝(共産)の各氏を寄せ付けなかったが、全国区では県出身の向井長年氏(民社)が4選を果たした。

 実はその年の夏、筆者は大和タイムス社の入社試験を受けるため、当時の国鉄奈良駅前の本社に何度か通った。参院選を報じる本紙の活字は1本1本に力がこもっていたように感じた。冒頭の社説を思い出したのは、今度の第22回参院選の結果を総括する意見の多くが、民意は民主党に厳しくてよかったというものだったからだ。

 先日の本紙記事審議委員会でも「日本人の平衡感覚が出た」「立派な反応だった」という声が多かった。それは「愚にして賢」と同じニュアンスであったのかどうかは判じ難いが、振り子のように過ぎれば戻るという日本人のバランス感覚を評価してのものだろう。

 それは生物の営みにとっても不可欠なもので、行き過ぎをとがめる作用が人間の生活を健全に律してきたといえる。人が行う政治も同じことだろう。多数派の絶対支配はしばしば危険性を伴う。良識の府と言われる参議院にチェック機能を持たせたという意味でも賢明な選択だったといえよう。

 現今の政治が、内閣や政党の支持率に一喜一憂し、そのために小手先の見栄えのする政策にこだわり、長期展望を見据えたプランを示し得ていないのは不幸である。依然として見栄えのする政治ショーを演出して選挙民の歓心を買う方法が続いている。メディアのせいだと言う前に、そろそろ卒業してもいい時期ではないか。民主社会に生きる選挙民は「愚」ではなく「賢」であり続けるべきだ。

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