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金曜時評

逃げるか挑むのか - 編集委員 水村 勤

 菅直人首相の表情がさえない。参議院選挙の敗退の原因が、自身の言動や政治姿勢にあるとみられているからだ。選挙戦直前から提起した消費税率の引き上げ問題が唐突で、発言も二転し“生煮え”の批判が集中した。民主党内での論議をほとんど踏まえたものでもないことも暴露され、首相としての求心力を失った。

共同通信社の世論調査で選挙戦前の64.8%の内閣支持率がわずか1カ月で36.3%に急落するのだから、世論の怖さを一番味わっているのは菅首相だろう。それでも、菅首相に辞任を求める声は15.2%と低かった。首相になって間なし。まずは「しっかり、仕事をしろ」と言っているようだ。

 消費税の問題については、当の首相自身が“やけど”を負った。他の指導者が火中のクリを拾い、党内を取りまとめなければならない。意見の異なる専門家の声にも謙虚に耳を傾けて政策の立て直しを行ってもらいたい。いずれ臨時国会では野党の厳しい追及があろう。小手先ではなく“生煮え”を一掃する方針を示さなければならない。

 菅首相がまずなすべきことは、参院選敗北の反省もさりながら、一部にある経済の“10月危機”に手当てをすることだ。県経済界も「増税より景気回復が先」(正木康雄・奈良市商店街振興会長)という声が強い。森本俊一・橿原商工会議所会頭は「景気回復を最優先し、中小の商工業者に応える政策運営を望む」と語っていた。

 中小企業金融円滑化法の効果もあり、中小企業の倒産は小康状態を保っているが、仕事が増えないことには国内景気はよくならない。「コンクリートから人へ」のキャッチフレーズによる大型公共事業の見直しは、功罪半ばする。地方には中小零細の建設業者も多い。長期的には産業構造の転換を図るべきだが、危険個所の道路改善など必要な公共事業がたなざらしになっていることもある。

 これも一例だが、学校など教育施設の耐震化工事は急がれる。子どもたちの命にかかわることでもある。学校の耐震化工事などの補正予算を組むなり、来年度の公共事業の力点を置くなり、地方対策に工夫を求めたい。

 二つ目には、わが国の年金制度について与野党が合意を目指す受け皿づくりである。駆け引きで審議を打ち切ったり妨害する委員会ではなく、協議会のような組織を求めたい。国民の将来への不安を払拭(ふっしょく)するため、各党のエキスパートが虚心坦懐に議論を収斂(しゅうれん)させていく機能を国会に設けて、スタートしてほしい。

 奈良市に大雨警報が発令された日、増水した佐保川の濁流の水面すれすれに、2羽のツバメが繰り返し飛んでいた。親なのだろう。ひなの餌となる水生昆虫を捕らえようと、果敢に挑む。生きるための必死な営みを見ていて、こみ上げるものがあった。

 子を思う親のような、損得も眼中にない、息詰まるような国会論議を見てみたい。

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