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金曜時評

中心市街の再生を - 編集委員 松井 重宏

 平城遷都1300年祭が開幕し、4月の主会場オープンに向けた取り組みが進む中、荒井正吾知事は早くも同記念事業の終了後を見据えた地域計画づくりに着手、構想案の公表を順次、始めた。

 その中で注目されるのが、今後の方向性として「ポストベッドタウン」を掲げた点。同知事は県ホームページに載せた新年あいさつで「これまで奈良の発展は『ベッドタウンとしての奈良』に大きく依拠してきましたが、今や転換点に立っていると認識し、『ポストベッドタウン奈良の経済発展』に取り組みたい」とし、大阪依存からの脱却を目指す姿勢を表明。大きな決断を示した。

 県人口が減少に転じて約10年。ピーク時に比べると約5万人、既に磯城郡3町に相当する分の人口が失われており、従来の宅地開発を原動力に推し進めてられてきた県勢発展の方向転換は避けられない。ただ今も大阪に職場を持つ県民は多く、消費や文化活動も大阪圏に取り込まれており、「脱大阪」の実現は容易ではない。

 この困難な目標に対し、荒井知事は「奈良らしい産業活性化と良質な雇用の確保」を図ることで「奈良で暮らし、奈良で働く」地域づくりを進めるとしているが、同時に県内の中心都市が持つ魅力を高め、求心力を強めることも重要な課題となる。

 いま県内では、大手スーパーなどの相次ぐ出店・再編で、個人商店の淘汰(とうた)に拍車がかかり、中心市街地では空洞化が進んでいる。3月にオープンするイオンモール大和郡山など大型店の積極的な展開が地域の消費を牽引しているのは事実だが、一方では中心市街地で長く地域経済を支えた地場業者の衰退が目立つ。

 奈良市では、68年間の歴史を誇る映画館、シネマデプト友楽(同市角振町)や戦後半世紀にわたって住民生活を支えてきた大門市場(同市今小路町)が今月末で閉店するニュースが目を引き、高田サティの6月閉鎖が決まった大和高田市や橿原市の中心市街地でも同様の現象が顕在化。地域密着型の商業、娯楽施設が衰え、郊外の大型店に消費が吸収されていく現状は、むしろ「典型的なベッドタウン化」が進んでいるとも見える。

 不況で個人消費が低迷、低価格路線の競合が激しさを増すなど厳しい環境だが、平城遷都1300年祭は、観光振興をテコに中心市街地の商業再生を図る好機。来県者だけでなく住民にとっても魅力ある地域づくりを実現してこそ、同記念事業を一過性のイベントに終わらせないことにつながる。

 関西広域連合の設立とも距離を置き、脱大阪依存を掲げて自立する地域づくりを目指す荒井知事。始まった平城遷都1300年祭の中で予算を伴った積極的な政策を期待するとともに、県の未来構想案では、中心市街地の活性化を軸に据えた、しっかりしたグランドデザインを描くことを強く求めたい。

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