特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

協議継続の努力を - 編集委員 松井 重宏

 生駒市の新病院整備事業をめぐる動きが注目を集めている。同市の山下真市長は年内にも病院開設許可申請を県に提出したい意向を崩していないが、条例に基づいて設置した市病院事業推進委員会が、正副委員長の辞任などで空中分解。正式な答申を受けられないまま同市長が、市議会の12月定例会に病院開設に向けた関連議案を提出した場合、議論を呼ぶことは避けられない。

 同推進委員会は、市民の要望に沿った地域の中核的な病院事業の運営を図るため今年10月に設置。市立病院の設置計画について市長から諮問を受けて審議を進めてきた。ただ当初から委員間に深刻な意見対立が見られ、県医師会の推薦委員が途中辞任。同委員は復帰したものの、その後、委員長らが辞任する事態に至り審議は中断された。

 その一方で、これらの経過については随時報道されてきたほか、インターネット上で生駒市医師会などによる主張、山下市長、委員長だった長沢啓介氏による事情説明も行われるなど委員会の場以外でも議論が白熱。市民から委員会運営にかかわる新病院設置条例の改正を求める請願書が提出されるなど、問題の波紋が広がっている。

 意見対立の一方を担う県医師会や生駒市医師会などは、新病院の指定管理者選定にかかる市の対応に不信感を募らせており、医療の専門家としての自負も強い。他方、市側は市立病院開設に必要な病床の確保などから期限にこだわり、早期の手続き推進を要望。双方が十分に協議、意見調整する余裕のない中で問題がこじれていったようだ。

 もちろん根深い対立もはらんでいるが、何より重要なのは市民の命を守る立場。長沢元委員長は、辞任理由の中で「生駒市ではこの1年の間に、3度にわたり救急患者を乗せた救急車が、長時間搬送先の医療機関を見つけることが出来ませんでした」と同市の医療現状を指摘。同市では平成17年3月に生駒総合病院が閉院して以降、小児、救急の医療の不足などを訴える市民の声が新病院開設を後押ししてきた。そして生駒市医師会も「一貫して新病院の必要性を市に働きかけてきた」としているのだから、県医師会などとの意見調整は可能に違いない。

 山下市長は、本年度末までに新病院の開設許可申請など必要書類を準備しなければ、病床210床が保障されなくなると説明。時間的な制約を理由に半ば強引に事業を進めようとしているが、市長自身、マニフェストで「生駒総合病院の後継病院をつくる」とともに「市内の医療機関との連携を強化する」としていることを忘れてはならない。

 同問題にからんで、県と県医師会との間に生じた関係悪化は「県民の健康維持に協力は欠かせない」(県医師会)として解消された。当の生駒市でも住民の声を軸に据え、解決策を積極的に探る努力が求められる。議会での議論が、そうした場になるよう期待したい。

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