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金曜時評

自立できる政策を - 編集委員 水村 勤

 定時制高校には、さまざまな境遇の生徒が通っている。家庭の経済力が弱いため、働きながら学ぶ道を選択せざるを得なかった人、小、中学校では登校拒否の状態のため、学校の環境に適応できなかったが、ようやく家庭を出て「自立」への一歩を踏み出している人、勉強はあまり好きではないけれど、高校の卒業資格がほしい人など、実にさまざまだ。

最近、子供の将来に対して関心を持たず、子供のアルバイト収入をピンはねするだけとしか見られない親が現れてきた。家庭に生活費を入れることは尊いことであるが、親にとって子供は単に家計に収入を入れる存在でしかないとすれば、悲しいことだ。

 そうした家庭環境の子供は登校しても、授業に集中できない。いろいろな活動も落ち着いて仕上げる根気が弱い。取りあえず、アルバイトをすれば毎日は過ごせる。いずれ家は出たいと思う。しかし、教師から将来の夢など尋ねられても、答えられない。こうした「壊れている」としか思えないような家庭から通う生徒が徐々に増えているそうだ。

 バブル経済の崩壊後、平成10年から昨年まで全国の自殺者が毎年3万人を超える状態が続く。無貯蓄の世帯が20%を超えて推移するなど、精神的にも経済的にも追い詰められた階層が増えている。

 そんな中、この夏の政治決戦をどう考えたらよいのだろう。5日には奈良市長選、奈良市議選が告示され、衆院総選挙もまもなく行われるのであろう。中央では与野党の政権交代もあり得る政治状況であるのに正直、筆者は冷めた空気を払しょくできないでいる。茶道を通じて教育活動を続ける奈良市の茶道家、森田宗圓さん(69)も同様で、まず口から出た言葉は「政治家が悪い」だった。

 県庁で長らく行政に携わり、政治家とも付き合いのあった森田さんは「根っこは教育の問題。日本人は営々と培ってきた大切なものを失った。甘えばかりの世の中になってしまった。『苦しむ人にムチを打つのか』としかられるだろうが、やはり人は誇りを持って生きるため、自立しなければならない。金銭に汚く、甘言を言う政治家が悪い」と憤る。

 小泉純一郎元首相は就任演説の時に「米百俵」を引用した。この故事も本来は、窮乏する長岡藩士が救援米を口にするのを我慢し、将来のある子供たちのために学校建設に使った美談である。人々にとって理解できる大義が真実の言葉で語られる時、人々もまた、勇気を持って行動できることを示している。

 昨秋、定時制・通信制高校の生活体験発表会が開かれ、各校の代表生はそれぞれに自分の日常の状況と合わせて夢や希望を語っていた。さて、その後の様子を学校に尋ねた。すると皆それぞれに、「自立」への道を一歩一歩、歩んでいることが分かった。

 自立に向けて努力することの素晴らしさを思う時、自立を支える社会政策の充実を改めて求めたい。

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