注目記事2024年春 奈良県職員人事異動 発表!

金曜時評

災厄に強い観光を - 論説委員 小久保 忠弘

 新型インフルエンザの感染が近府県に及んで、いよいよ奈良もその騒ぎに巻き込まれるのかと覚悟した人も多かったに違いない。案の定、県観光の主力たる修学旅行を直撃し、宿泊の解約が3万5000人、460校という空前のキャンセルである。一般宿泊客も加えると75の旅館・ホテルで約4億5000万円の損失。これに加えて観光バスやタクシー、飲食や土産物、鹿せんべいまで含めると相当な損害になるはずだ。

地震や台風といった天災とは違い目に見えないウイルスという、私たちがこれまで経験したことのない感染症の連鎖による災厄である。既に感染者の出た地域では、こんな数字にとどまらない。当該の知事や市長がやっきになって「安全宣言」を出すなどしているが、ただでさえ冷え切った景気に氷水をさされる思いであろう。「明日は我が身」―。県内から感染第一号が出て、地図上に赤く塗られて報道されれば、さらに深刻だ。何しろ7月には全国高校総合体育大会(近畿まほろば総体)が控えている。

 3月に阪神なんば線が開業して以来、奈良―神戸の人の行き来が増えた。いま人気の奈良町などは、加古川や姫路など神戸以西からの客が目立っていたというから、世界遺産を絡めた新しい奈良観光の姿が展望できつつある。これ以上の感染拡大で新しい芽を摘まれてはなるまい。

 ひとり奈良さえ生き残ればいいとは誰も思っていないが、これが避けられないとしたら、先に経験した地域から学び、行政はできることとできないことを県民に示すべきであろう。さいわい新型インフルは感染しても重篤に陥ることは少ないようだ。合併症には十分な対処が必要だが、ヒステリックに右往左往する必要はない。「発熱外来」も徐々に増設されるなど県の対策も進んでいる。新事態に不休で対処してきた現場の苦労はいかばかりか推して知るべしだが、この努力と県民の落ち着きが発生を未然に防いでいるのであろう。巨大地震で想定される県内の帰宅困難者は約20万人。毎日これだけ通勤・通学者が大阪などへ移動して、いまだ感染者ゼロというのはまさに神仏の加護もあると思いたい。

 現在は苦戦しているものの、京都市の観光客が昨年5000万人を突破したという。もとより規模も中身も違う奈良観光と比較しても意味はないが、経済界と社寺が連携して春秋以外のオフシーズン対策に乗り出したり、外国人観光客誘致のために米国や中国、韓国などに情報発信拠点を設けるなど、それなりの仕掛けを展開した成果だろう。東山や嵐山をライトアップする「花灯路」など100以上の企画を実施してきたというから、不断の努力は裏切らない。

 季節頼みの奈良観光の脆弱(ぜいじゃく)性がもろに出た今回の新型インフル騒ぎだが、現在までの発症者ゼロを奇貨としてホスピタリティー満点の奈良を売り出すチャンスとしたい。

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