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金曜時評

何か裏にあるのか - 主筆 甘利 治夫

 何があったのかを知りたい。奈良市の3月議会は新年度予算を成立させて閉会した。それにしても、今月初めの開会前に、藤原昭市長が不出馬表明をするとは、誰が予想したろうか。いまだに不自然で納得がいかない。



 来年開業としていたJR奈良駅前のホテル誘致事業が頓挫した。「その責任をとって、次期市長選には出馬しない」という。数えきれないほど市の事業はある。一つ一つの事業が挫折したからといって、責任をとらねばならないのなら、誰も市長職は務まらない。



 首長が、責任をとるのは、重大な不正や不祥事が発覚した時であり、市民生活に大きな影響を与えた場合ではないか。選挙公約が実行できなかったり、選挙前の問題で道義的な責任が問われ、議会から辞職勧告の決議がされても「居座る」首長は身近にザラにいる。



 今度のホテル問題が、不出馬を決断させるほど内容だったのか、という疑問が残る。



 今年1月末の時点で、工事が計画通り進められていなかった。そして新会社は資金調達と融資計画の見通しもなく、来年9月のホテル開業は絶望的だった。そのことが表面化したのが、2月5日の市議会総務水道委員会(高杉美根子委員長)だった。本紙の報道もそこから始まった。



 4年前の3月議会は、税金未納・欠損処理問題で当時の鍵田忠兵衛市長(現衆院議員)が、賛成多数で辞職勧告決議されたが居座った。結局、混乱したまま6月議会で不信任決議され、鍵田氏は市長辞任と議会解散の道を選択した。その鍵田氏と戦い、自民、公明、社民推薦、民主支持、共産応援という主要5党に支えられて藤原氏が当選した。



 「二度とあの混乱した市政はごめんだ」と、職員や議員の多くが、藤原市政を支え、安定した3年有半を過ごしてきた。それだけに、このホテル問題の不可解さが表面化し、本紙も見逃すことはできないと、藤原市長の勇気ある撤退の決断を求めた。来年は平城遷都1300年記念事業があり、市長選も控えている時期だから、ホテル問題などで藤原市長が失敗するとは想像もしなかった。新年度予算の中身からも、再選への意欲もうかがえたからこそ、不出馬表明に納得できない。



 撤退の決断をするだけのことだ。不出馬を決断するほどの問題ではないと思うからこそ、驚かされた。「なぜなのか」「裏に何があるのか」と、疑惑が増幅している。



 本紙が報道を開始した時点で、すでにホテル建設は無理だったことは、これまでの記事の一つ一つを点検すれば分かる。「早く勇気ある撤退をして、次期市長選に臨むべき」との論調もあった。



 次期市長選は藤原氏と鍵田氏の再戦と目されてきた。今のところ正式な出馬表明は誰もいない。この事態に「鍵田氏有利に」の声も一部にあるが、市民が4年前のことを忘れたとはけっして思えない。いずれにせよ、県都・奈良市にふさわしい首長を、選んでほしいと願うばかりだ。



 藤原市長は、市政安定に努めた3年有半の評価を揺るぎないものにするために、「なぜ強引に事業を進めようとしたのか」を明確にすべきだ。不出馬表明せねばならなかった裏の何かを誰もが知りたい。

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