注目記事山下県政 世論調査の全結果掲載

金曜時評

多すぎる不明瞭さ - 論説委員 寺前 伊平

 開催まであと11カ月を切った平城遷都1300年祭。奈良県にとっては、約20年前に催された「なら・シルクロード博」に次ぐ大きなイベントだが、かたや景気が上昇気流での開催だったのに対し、来年秋にクライマックスを迎える「1300年祭」とは様相がかなり違う。



 ただ、「1300年祭」を機に奈良観光の一層の飛躍を確信する荒井正吾知事はもちろん、国際文化観光都市と位置付ける奈良市の藤原昭市長とて同じ思いであるはず。全国各地から、世界中から観光客を呼び込むまたとない機会であるには違いないが、問題は受け皿となるホテル建設事業がいまだに暗雲が立ち込めていることである。



 懸案のホテルは、JR奈良駅西側に建設予定の米ホテルブランド「コートヤード・バイ・マリオット」。市は先月末、元市有地の事業用地が旧国鉄の車両基地時代に埋め立てられた石炭ガラ(約9000トン)の処理に関して、破たんした「ゼファー」(東京都)から引き継いだ事業主の「JR奈良駅前ホテル開発」と合意書を交わして、今月初めに除去作業をスタートさせた。



 この処理費用は市が負担し、補償費名目で約2億4000万円を3月補正。藤原市長はホテル本体工事を3月中に着工、来年9月には開業にこぎつけたい思いを強調した。



 藤原市長の焦る思いが、ここにきてかえって妙に映るのである。疑問点を整理すると三点挙げることができる。



 一つは、市長が明確な建設計画を示さないまま、石炭ガラなどの処理費用を市の負担と決めたこと。市民の税金を使うのに議会の承諾が欠かせないが、議会に諮らないまま“見切り発車”したこと。



 二つ目は、市は「ホテル開発」と昨年11月にホテル開業までの基本スケジュールを定めた「協定書」を交わしているにもかかわらず、「ホテル開発」が石炭ガラ処理工事にかかるのに3カ月近く遅れたこと。「協定書」では「3カ月以上遅れた場合は、解除することができる」となっており“協定書破り”ぎりぎりの行為であるのに対して、責任の所在がはっきりしていないこと。



 三つ目は、総事業費75億円の資金調達に関していえば、市が推進軸とされる民間都市開発推進機構(民都)などの出資予定について、国の認可に向けた申請書類などの協議中であるとしながらも、いまだに資金調達のメドが立っていない状況であることだ。



 少なくともこの三点について明瞭(めいりょう)な説明がない限り、市民や議会の不信は払しょくされるはずがない。藤原市長はまず議会に配慮しつつ、3月議会までに納得のできる説明がいるだろう。そうでないと、この件での議会特別委員会設置も予想され、「1300年祭」に合わせた当初のホテル開業すらできない状況を生み出すこととなる。



 不明瞭なままでは政治は進まない。そのことを十分認識しているとは思うのだが…。

特集記事

人気記事

  • 奈良の逸品 47CLUBに参加している奈良の商店や商品をご紹介
  • 奈良遺産70 奈良新聞創刊70周年プロジェクト
  • 出版情報 出版物のご購入はこちらから
  • 特選ホームページガイド