特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

忘れるな厳しい目 - 主筆 甘利 治夫

 「県民の皆様におわびしたい」と南都銀行の西口広宗会長が、一連の違法建築への融資で、謝罪会見した。時間がかかり過ぎた面もあるが、トップとしての決断と姿勢を県民に示した。



 この違法建築問題は、昨年10月の本紙報道で発覚した。奈良市杉ケ町の不動産会社「公誠」(松川公明社長)による都市計画法、建築基準法、不動産登記法などの悪質な違反が次々と明らかになった。これを融資という形で犯罪を助長、促進したのが南都銀行だった。松川氏が、奈良市を欺き、結果的に南都銀行を犯罪に加担させたという図式だ。



 この違法行為を長年見逃してきた監督官庁の奈良市の責任も大きい。そして南都銀行が、融資をする前に厳正に審査していれば、その違法性が分かるのに見逃してきた。そんな松川氏へ安易に融資した特別な関係や、ずさんな審査が問われて当然だった。



 なかでも帯解地区の市街化調整区域に建設された共同住宅(16戸)の例は悲惨だ。建築確認申請もない都市計画法違反の建物で、市の指導によって解体、撤去されることになった。退去する人たちも災難だ。撤去により松川氏の損害への同情はあるまいが、使える建物を撤去せねばならない社会的損失は大きい。建築基準法に定められた建築確認申請、完成後の検査済証の交付といった手順を、監督官庁や金融機関が厳守していれば、松川氏の暴走を許すこともなく、その他の違法物件もなかったといえる。



 南都銀行は、県を代表する企業だ。県経済の発展に重要な位置を占めていることは誰でも知っており、県民生活になくてはならない存在だ。だから一企業でありながらも、極めて公共性が高く、企業倫理が厳しく問われて当たり前だ。



 問題発覚後の同行の一連の対応をみると、どこを向いて仕事をしているのかと、怒りさえ覚えた。トップ企業であることの傲慢(ごうまん)さ、県民が「お客さま」であるとの意識の欠如、唯我独尊的体質が見てとれた。もちろん「そんなことは、けっしてない」と否定するだろうが、記者の目にそう写った。



 報道の過程で、県民からの電話、手紙、ファクスなど寄せられた情報の多さにも驚いた。そのほとんどが激励であり、同様の事例や、書類のコピーまで同封した同行に関係する内容だ。これまでとまったく違い、同行擁護のものがほとんどない。それだけ南都銀行の存在が大きく、多くの人が関心を寄せ、不満も大きかったことの証拠でもある。



 当初の取材で、同行の窓口は「木で鼻をくくった」ような、何も答えないに等しい回答をした。そして違法建築問題が、ますます悪質なことが分かり、同行の加担が明確になってきた時点でも、会見に応じようとしなかった。



 昨年12月初めの中間決算の報告書で、植野康夫頭取があいさつのなかで企業の社会的責任を語り、「法律や政令だけでなく、倫理や社会規範」を厳正に順守すると「コンプライアンス(法令順守)の徹底」を経営方針に掲げた。まさに作文だった。対外的に示した文章と、していることが違うのだから、作文としかいいようがない。



 事態を重視したのか、ようやく年末ギリギリに、西口会長が会見した。しかし、これも行内の知恵のある人たちがまとめた労作を、読み上げるという対応の仕方で、「言い逃れ」会見になってしまった。融資の問題だけでなく、同行の体質も問われることにもなった。預金者である県民や融資先に、答えようとしない姿勢に批判が集まり、本紙は、何が問題なのかを整理し、再会見を求めた。



 こうして新しい年を迎え、先日の謝罪会見にたどりついた。西口会長は、当時の審査の甘さや、結果的に違法建築を助長してしまったことの非を率直に認め、関係者へのおわびとともに、「私が頭取を務めていた時期でもあり、総括する立場にありました。非常に反省しているところであります」と謝罪した。



 トップ自らが、非を認め、自身の言葉で語った。西口会長が、逃げることなく、今度の問題を真っ正面から受け止めて対応したことは評価したい。そして「業務に精通し、間違いのない指導をすることが私の責任」とした。多くの県民が、その姿勢を待っていた。なぜもっと早くできなかったかと思う。もちろん、会見したから終わりではない。どう改革していくのかを見ていく。県内トップ企業だからこそ、南都銀行に向ける県民の目が厳しいことを、肝に銘じてほしい。

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