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金曜時評

今こそ支える時ぞ - 編集委員 水村 勤

 日本経済の“優等生”として高い評価を得ていたトヨタ自動車をはじめとする大企業が、師走を迎えて労働者の大リストラを始めた。派遣労働者や期間労働者を中心に非正規社員の大規模な削減に手をつけ社会問題となっている。しかも、自動車やエレクトロニクスなど輸出を中心とした主要産業がここまで追い込まれるのかと、ショックは大きい。これに加えて、来春卒業の大学生の採用内定の取り消しが全国で約330人に達した。



 奈良労働局によると、県内学生の内定取り消しはいまのところ3人。1月下旬段階が正念場であるという。職業系高校の進路指導部に聞いた。幸いに今のところ内定取り消しはなかった。工業系の1校では就職希望の3年生は昨年と同様に大半が内定を取得した。商業系の1校では昨年の同時期よりやや内定率が後退し苦戦。不況の影響が出てきた。「1月中には何としても90%台に持って行きたい」という。もちろん、派遣会社からも求人はあるが、正社員の採用を勧めている。同局の名須川信雄局長は「県内の中小企業経営者は辛抱強い」と、極端なリストラ策を取らない経営姿勢を評価する。



 主要な地場産業の一つにプラスチック製造業がある。数年に及ぶ原油高騰でたび重なる原材料の値上げに苦しめられたが、ようやく資材値下がりの兆候で一息つけそうだ。田原本町でプラスチック成型加工をする山田至完社長は、大量生産から多品種少量生産へと生産システムを切り替えた。最多の製品でも全体の生産の2割に満たない。多い製品でもせいぜい数百個。少ないものは数個から注文を受ける。



 現下の状況は「プラスチック製造でも大量生産の分野はかなり海外に出てしまった。残ったのは高級品や手間のかかるやっかいな小ロットのものづくり。廉価製品は海外に太刀打ちできない。利益の出るものづくりで勝負するほかない」と語る。設備投資はほぼ毎年行い、機械を更新。1台の更新ペースは10年から15年に延びたが、機械の更新は生産精度を上げるだけでなく省エネ面でもメリットは大きいそうだ。



 山田社長にとって同業に限らず、さまざまな業種の経営者、行政関係者間との情報交流も大きいそうだ。自社では扱いにくい大量の注文を同業他社に紹介したり、逆に手間のかかる仕事が紹介で舞い込んだり、ヨコのネットワークが事業を支える。



 かつては中途採用の従業員が主流だった。バブル経済崩壊後から高校生の定期採用を続けている。以前は数台の製造機械を1人の技術者が操作していたが今は1台に1人。難易度が高くても良品を生産する技能の習熟など、従業員の能力向上が将来への希望だ。



 大量生産の逆を行く経営を会社の強みとする手腕に拍手を送るのは、奈良中央信用金庫の鈴木幸兵理事長だ。異業種交流の勉強会を切り盛りしてきた同志でもある。そんな元気企業同士の交流をはぐくんできたのではあるが「地域経済の活力がじわじわと下がっていくことが怖い」と吐露する。県内でも年々減少しつつある事業所数は、経営破たんではなくても後継者難などで自然廃業が確実に増えているからだ。



 「100年に一度の経済危機であるならば大胆な財政出動で公共投資を思い切って実施し、一時的な給付金よりも地域産業が新たな仕事をつくることで雇用拡大へ誘導できないものか」。鈴木理事長は力説する。同金庫は今年、中小企業振興の助成金制度をスタートし、これには82の事業所が名乗りを挙げた。「地域の中で伸びようとする大切な芽。ぜひとも育てていきたい。それには国も地方のやる気と合わさって収斂(れん)していかなければならない」。地場産業が生き残りをかけて発展していくために何ができるのか。



 しかし、ハッピーな中小企業者ばかりではない。ある経営者の話だ。県内最大の金融機関、南都銀行の勧めで同行からの直接の借入金が県信用保証協会の信用保証による融資に変更された。やがて返済が不能になった。会社は競売の憂き目に追い込まれた。その怨嗟(えんさ)の声が聞こえてくる。

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