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金曜時評

「商人道」に学べ! - 論説委員 寺前 伊平

 今月20日ごろに予定されている財務省の来年度予算原案内示を前に、自民党内がにわかにざわついてきている。各省庁からの予算要求額に枠をはめるシーリング(来年度概算要求基準)見直しを麻生太郎首相に求め、道路特定財源の一般財源化をめぐって、来年度に約1兆円の地方向け交付金を設ける方向が急浮上。新交付金の中身のほとんどが道路整備費に充てられる見通しが強まったためで、一般財源化の意味が後退した感がぬぐい切れないでいる。



 加えて、麻生首相は緊急の経済対策として盛り込んだ第2次補正予算案を諮る時期を、来年の通常国会へと先送りした結果、首相としての求心力や内閣支持率が急降下。政局をにらんだ野党第一党の民主党・小沢一郎代表との対決色が、より鮮明となってきた。



 先送りした第2次補正予算案は▽2兆円の定額給付金の支給▽高速道路料金の値下げ▽中小企業への資金繰り対策▽地域活性化への交付金―が骨子。いずれも、国民生活を左右しかねない重要な案件である。



 定額給付金については議論がつきないが、新興不動産会社や建設会社の経営破たんが相次ぐ今日、この年末にかけて他の中小企業にも、厳しい資金繰りの火の粉が降りかかろうとしているのが現状である。



 こんな時、頼みの綱は地域に根を張る金融機関であるはずだが、本来の使命とは裏腹に資金の貸し出しに慎重になる「貸し渋り」や、貸し付けている資金の返済を迫る「貸しはがし」といった冷たい対応がこのところ目立ってきている。銀行からの融資が思いにまかせず、年末に経営破たんする中小企業が続発寸前まできているのである。



 企業の社会的責任(CSR)がクローズアップされて5年が経過する。企業の不祥事続発が発端となったが、今また企業倫理の高まりを必要とする問題が目に見えて多くなってきた。



 本紙で明らかになった奈良市杉ケ町の不動産会社・公誠と同社長松川公明氏がかかわった数々の違法建築に、奈良県を代表する金融機関・南都銀行(当時・西口広宗頭取)が、すべてで融資協力していた問題がそれ。「仕事があるのに融資してくれない」と嘆く善良な中小企業者からすれば、許しがたい行為に違いない。



 今回の問題は、企業倫理やコンプライアンス(法令順守)を顧みない行為としてうつる。現在も進行中であるこの問題に対し、南都銀行は預金者である県民と融資先に説明をしなければならない企業の社会的責任があると考える。



 経済概念に卓越した江戸時代の思想家・石田梅岩は「商人道」の中で欲求と倫理のバランスの重要性を説いた。その著書『都鄙(もひ)問答』の中で、「共生の理念」について「世間のありさまを見れば、商人(あきびと)のように見えて盗人(ぬすびと)あり、実(まこと)の商人は先も立ち、我も立つことを思うなり」と答えている。



 これは「商人が売買で利益を得ることは理解できるが、その他のことで社会的に許されないことをやってはいないか」の問いかけに答えたもので、「世間には、商人のように見えて盗人もいる。まことの商人は商売の相手を立てながら、自分も立つという心がけをもっているものだ」という意味である。



 商人自身が決して不正な手段によって富を得てはいけない、という警告としてとれるが、このことは現在にも通じることである。



 先日、日銀は企業金融を円滑にするため社債などを担保にした新たな資金供給策を決めたばかり。日銀が銀行に資金を供給し、そのお金を銀行が各企業に回しやすいよう促す仕組みである。この仕組みが、不景気のはざまで不安をかかえる中小企業にまで実効を伴っていかなければ意味がない。



 以上のことを踏まえ、南都銀行は違法建築した特定の業者へ度々融資したことへの説明責任とあわせ、とくに真面目に経営にあたっている中小企業へ資金貸し出しする社会的責任を果たしていくべきである。

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